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  • リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)のAI・LLMによる高度化
  • リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)のAI・LLMによる高度化

    牧野良次(爆発利用・産業保安グループ)

    • 佐分利禎(爆発利用・産業保安研究グループ)
    • 鈴井真紀(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】
     リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)は2002年に産総研が開発した化学災害に特化したデータベースで、約7500件の災害事例データを無料で公開しています※)。近年、人工知能(AI)とりわけ自然言語処理(LLM)の技術が急速に進歩しています。これらの技術を応用することによりRISCADの維持管理の効率化が期待できます。さらに、RISCADを単に「災害事例データを見せるだけのもの」から「災害に関する質問に答えてくれるLLMを活用したAI応答システム」に高度化することも可能となり、RISCADユーザの利便性向上ひいては化学災害の防止に役立つと考えています。

    ※)ただし2025年6月末時点では情報セキュリティ対策のため閉鎖中。

     

    【成果】
     災害事例データの収集、解析、公開にAI・LLMの技術を適用して新しいRISCADの試行版を開発しました(2025年6月末時点では非公開)。ニュース記事など複数の情報をもとに、LLMのプロンプト指示を調整することによって災害事例概要文の生成を試みました。RISCADの概要文の書き方(事故発生年月日や被害状況などの記載ルール)に準拠し、かつ専門研究者が作成したものを相当程度再現する概要文がLLMによって生成可能であることを確認しました。一方、事故原因の推定や解釈についてはプロンプト指示だけでは必ずしも信頼性の高い結果が得られるわけではないことも明らかになりました。そこでRAG(Retrieval Augmented Generation)と呼ばれる技術を適用し、RISCADの災害事例データをLLMに渡して災害に関する専門情報を補うことによってより精度の高い応答を可能とするシステムを試作しました。

     

    図 RISCADを外部データベースとしたRAGの適用

    RAGとは、与えられたクエリに関連する情報を外部データベースや文書から検索・抽出(Retrieval)してLLMに渡し、LLMがその情報を補完的に用いることによって生成(Generation)する回答の質を向上させる技術です

     

    【成果の意義・今後の展開】
     RISCADのAI・LLMによる高度化に継続して取り組みます。具体的には、経済産業省事業の成果である「現場保安チェックポイント集」も外部データとして活用し、「災害に関する質問に答えてくれるLLMを活用したAI応答システム=高度化されたRISCAD」の実用化を目指した研究開発に着手します。企業現場における安全管理の支援を通じて、より安全かつ生産性の高い企業活動の実現に貢献したいと考えています。

    2025年07月15日