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  • 自然植生による爆風圧低減可能性に関する実験
  • 自然植生による爆風圧低減可能性に関する実験

    杉山勇太(爆発安全研究グループ)

    【背景・経緯】
     火薬類の爆発によって発生する爆風は周囲に深刻な被害を及ぼす可能性があるため、爆発影響低減化技術の開発を行なっています。爆風の強さは爆発で放出されたエネルギーに依存します。そのため、爆風が伝播する過程で緩衝材(ガラス粒子や金属多孔質体)と接触させることでエネルギー吸収および爆風圧低減できることが知られています。日本は山国であり森林帯が豊富に存在することから、本研究では森林に設置した火薬庫等を対象とした際の爆風圧の低減可能性を検討しました。実規模の縮小実験として爆発ピットにおいて0.5 gの爆薬とジオラマ模型で使用されるモデルツリーを使用した実験を行い、爆風圧低減効果を検証しました。

     

    【成果】
     図(a)に実験条件を示します。発泡スチロール土台にモデルツリーを均一に配置し、その中心に爆薬を置いて爆発させました。火炎の拡がりやモデルツリーの飛散挙動を高速度カメラを用いて可視化し、圧力センサによって爆風圧を計測しました。図(b)は起爆直後の火炎とモデルツリーとの干渉の様子です。火炎や爆風がモデルツリーに到達すると反射と入射成分に分割されます。周囲がモデルツリーで囲まれていることから、反射した爆風は空の方向に強く伝播すると考えられます。また高温な火炎がモデルツリーに入射すると熱伝達が生じ、エネルギー吸収が生じると考えられます。図(c)に爆風圧分布を示します。同じ距離において、モデルツリーなしの黒プロットに対してモデルツリーありの赤プロットが下側に遠ざかるほどモデルツリーによる爆風圧低減効果が向上します。図(b)の実験条件では爆風圧低減効果はモデルツリー背後で最も高く、遠方であっても常に30%以上の爆風圧低減を達成しました。
     

    図 爆薬周囲にモデルツリーを設置した場合の爆風圧低減効果の検証

     

    【成果の意義・今後の展開】
     ジオラマ模型で使用されるモデルツリーによって爆風圧を低減できました。この成果は自然植生による爆発影響低減の可能性を示唆しておりますが、爆発影響低減化技術として実装するためには、爆薬量を増やして実規模に近づけ、かつモデルツリーではなく本物の木を使用する研究が必要です。また、木の設置範囲や高さなどが爆風圧低減効果に大きく影響すると考えられることから、引き続き様々な条件で研究を進めていきたいと思います。

    2025年07月15日