産業のグローバルサプライチェーン(GSC)における鉱物資源調達構造の改善によるCO2排出削減ポテンシャルを推計
前野啓太郎(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
金属は将来的な脱炭素技術の導入による需要の急成長が予想される一方、その生産(精錬など)自体は極めてCO2排出集約的であることが広く知られています。既存の政策は革新的技術などの導入により主に金属の生産段階からのCO2排出削減を目指していますが、それらは金属のライフサイクル全体を俯瞰する視野に欠けています。金属生産の原料となる鉱物資源の採掘による環境負荷についても懸念が高まる中、鉱物資源のほとんどを輸入に依存している日本産業において、低炭素型の鉱物資源調達によるCO2排出削減等の可能性を定量的に把握することは今後極めて重要な課題となります。そこで本研究は鉱物資源の低炭素調達構造を実現するGSCの構築によるCO2排出削減ポテンシャルを探索しました。
【成果】
本研究は、日本産業のGSCにおける銅鉱石・鉄鉱石調達に焦点を当て、当該鉱物資源に関する鉱石調達構造の改善によるCO2排出削減ポテンシャルを推計しました。具体的に、日本産業のGSCにおける銅鉱石・鉄鉱石の調達構造の改善には、それぞれ約1285kt(関連CO2排出の約37%)、約1709kt(同約41%)の大きなCO2排出削減ポテンシャルがあることを発見しました。さらに当該GSCにおける鉱物資源の調達先に関して、どこの国からどこの国に、どれだけの調達量をシフトすることで、どれだけのCO2削減効果が得られるのかを示す(図)ことで、日本産業のGSCにおけるCO2排出削減に向けて効果的な鉱物資源調達先シフトの経路を示唆しました。例えば、図に示される銅鉱石に関する分析結果から、日本産業GSCにおけるオーストラリアからペルーへの銅鉱石調達先シフト(図中赤枠部分)が、CO2排出削減に向けて最も効果的であり、ここだけで約684ktのCO2排出削減効果を見込めることがわかります。
※ 本研究成果は下記論文で公開されています。
Maeno et al. (2025) Resour. Enviro. Sustain. 20, 100215.
https://doi.org/10.1016/j.resenv.2025.100215
図 日本産業のGSCにおける銅鉱石調達先シフトによるCO2排出削減ポテンシャル
横軸:調達先をシフトする銅鉱石量(kt-鉱石重量)、縦軸:それによるCO2排出削減効果(kt-CO2)
【成果の意義・今後の展開】
2030年までに金属部門からのCO2排出量を30%以上(2013年比)削減するという日本政府の目標に対して、本研究の成果から、例えば、日本産業GSCの銅鉱石に関する低炭素型調達構造の実現により、銅生産に伴うサプライチェーン段階のスコープ3-CO2排出量(銅鉱石採掘関連のCO2排出量を含む)の約36%が削減可能であることが明らかとなり、将来の気候政策設計において有用な洞察を提供しています。今後は金属ライフサイクルを包括する発展的な分析を展開し、当該分野における脱炭素戦略の策定に更に貢献していきたいと考えています。
※本研究成果は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(JP23KJ1703、23K28302、21K13277)による支援を受けたものです。
2025年07月15日