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  • 次世代ロケットシステムの打上げ安全基準の整備に向けた基礎研究を推進 –液体メタン燃料の爆発威力を屋外実験で評価-
  • 次世代ロケットシステムの打上げ安全基準の整備に向けた基礎研究を推進 –液体メタン燃料の爆発威力を屋外実験で評価-

    佐分利禎(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】
     近年、宇宙産業関連の技術開発が活性化しており、ロケット打ち上げ事業には民間企業も次々参入しています。次世代ロケットシステムの推進システムとして液化メタンが注目されており、低コスト・低リスク化が求められる民間ベースのロケットの推進システムとしても期待されています。安全にロケット打ち上げを行うための射場・宇宙港技術として、液化メタンを燃料とする場合の安全技術基準の確立もまた重要です。国内では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げ時の保安距離を定めるために必要な爆発威力の算定式を整備していますが、液化メタン燃料についてはまだ整備されておらず、今後の液化メタン燃料による次世代ロケットシステムの打上げ安全基準を早急に整備する必要があります。

     

    【成果】
     液化メタン燃料の爆発安全基準の策定を目指して、2022年よりJAXAと共同研究を推進しており、ロケット打ち上げ失敗や事故発生時に発生する爆風、飛散物及びファイアボールによる放射熱の影響に対する保安距離の算定に必要となる基礎データの取得と解析を進めています。
     今回は、ロケット打ち上げ直後に落下・爆発する衝突モードによる事故を想定し、これを模擬した1 kg級規模の野外実験を実施しました。図(a)に示すような液体燃料を搭載したガラス容器を、実際に想定される墜落速度で落下させ、地表面に衝突して爆発した場合の爆発威力を計測評価しました。計測は、爆風圧、放射熱計測のほか、高速度カメラ等による映像観察を行いました。実験では、燃料容器はおよそ設計通りの速度で地表面に衝突・破壊し、ほとんどのケースで自着火して爆風圧および放射熱を発生しました。図(b)に火炎観察映像の例を示します。本実験での観測結果をもとに、液化メタン燃料の爆発威力を推定することができました。

     

    図 1kg 級液化メタン燃料落下実験の様子

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究での成果[1,2] は、液化メタン燃料に関する保安距離算定式を構築する基礎データとして用いられ、将来的には内閣府が策定する人工衛星等の打上げに係る許可に関するガイドラインに反映されることを目指しています。これにより、液化メタン推進システムによるロケット打ち上げ時の警戒区域の設定などで役立てられることになります。今後さらに規模を大きくした野外実験の実施を計画しており、実規模での影響予測の高精度化を目指しています。

     

    参考文献:
    1 Okamura, S, et al. “Evaluation of TNT Equivalence of Launch Vehicle Fuel (LOX/LCH4) by 1kg-class Explosion Experiment”, EUCASS 2025, Rome, Italy, 2025. Forthcoming.
    2 佐分利禎, et al., 次世代ロケット打上げの安全基準策定に向けた取り組み、安全工学シンポジウム、2025.6.

    2025年10月10日