国際的専門家との協働によるウォーターフットプリントにおける主要な方法論の特徴整理
本下晶晴(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
ウォーターフットプリント(Water Footprint:WF)はサプライチェーン上における水利用による潜在的な環境への影響を評価する手法として注目され、活用されています。一方で、WFの評価において参照される標準的な手法として、(1)Water Footprint Network(WFN)というコミュニティーから提唱されている「The Water Footprint Assessment Manual」、および(2)ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)をベースとした国際規格ISO14046:2014の2つが存在しています。これまで同じWFという名前でありながら、2つの手法に基づいた分析が行われることで、しばしば両者の間の共通点や相違点に関する混乱や批判がみられていました。
【成果】
こうした状況を改善すべく、2つのコミュニティーから国際的な16名の専門家が集まり、2年間にわたって相互理解を深めながら意見交換を行い、それぞれの方法の類似性や相補的利用の可能性などについて整理しました。水資源消費の観点からブルーウォーター(地下水や表層水)とグリーンウォーター(土壌中に保持された雨水)の利用に関する影響評価について、ならびに水質汚染の評価方法についてそれぞれの方法の違いを詳しく分析し、その特徴をまとめました(下表参照)。細かな方法論としての違いは様々なものがありますが、特にWFNによるマニュアルに基づいたWF評価では農業および河川流域における水利用の管理に有効な地域における水利用効率や汚染の総量の把握などに有効である点が特徴です。一方、LCAベースのWF評価では水利用だけでなくそれに伴う人間や生態系への潜在的影響評価ができることや、複雑なサプライチェーンの中での影響を俯瞰することができる点に強みがあるといえます。
本成果は下記論文にて公表しています。
Berger et al. (2025) Ecol. Indic. 174, 113458
https://doi.org/10.1016/j.ecolind.2025.113458
表 WFNベースおよびLCAベースのWF評価の共通点と相違点

【成果の意義・今後の展開】
これまで同じWFという水利用に関する影響の分析手法として異なる手法が存在することで、評価手法のユーザーにとってはどちらの手法を用いるべきか判断に困る状況にありました。これらの分析手法の開発を専門とした世界の研究者が集まって今回のような両手法の間の共通点や相違点を明らかにするだけでなく、それぞれの手法が相補的に利用できる可能性を強調して結論付けています。これにより、WF実施の目的に合わせてより適した手法を用いた評価をユーザーが実施することが容易になり、WFを通じた持続的な水資源管理が進んでいくことが期待されます。
2025年10月10日

