高エネルギー物質の爆轟生成ガスの状態方程式に関する研究 ‐材料データベースの調査と再構築‐
久保田 士郎(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
火薬類に代表される高エネルギー物質は、鉱山採掘やトンネル発破のみならず、材料開発や宇宙開発などに広く使用されます。外部衝撃等で、エネルギーを瞬時に解放する性質を持ち、瞬間的に高温高圧状態を達成する激しい燃焼形態、いわゆる、爆轟を呈します(1)。その熱力学的状態は、物質毎に一意になるものの、現象が高速かつ高温高圧であるため、状態を特定することは容易ではありません。我が国では唯一、Kihara-Hikita-Tanaka(KHT)状態方程式が1995年に汎用コード化されましたが、2009年の更新からは進んでいません。そこで、研究を継続、進化させる必要があり、研究とコード化に取り組んでいます。
【成果】
昨年度までに、現KHTコードが有する材料データベース(DB)を活用したコード化の方針を固めました。そのため、同熱力学DBについて調査し、基本原理も含めて火薬学会春季大会で発表しました(2)。1月には固体残差を考慮しない場合についての成果を国際誌に投稿し、現在は掲載待ちです。KHT式とその前身であるKH式から得られる結果とを比較して、KHのパラメータを修正することで両者はよく一致することを示しました(図)。爆轟生成ガスの状態方程式の結果として得られるのは、瞬間的に得られる圧力や温度、燃焼反応が伝わる速度のみならず、高圧状態からどのように爆轟生成ガスが膨張するかなどの情報です。厳密には爆轟生成物で、固体炭素なども含まれることがあります。そのため、固体成分の状態方程式DBについても調査しました。既存のDBの構造を理解し、それを新しく開発中のコードに取込み、爆轟生成ガスの爆轟特性を評価可能としたことがこれまでの成果です。

図 KHT状態方程式とKH状態方程式から得られたエントロピーの比較
【成果の意義・今後の展開】
固体残差を考慮可能になれば、状態方程式の高精度化と同時に、新規発破用高エネルギー物質の爆轟特性予測など、応用の幅も広がります。研究の進展の過程で新しい研究対象とも遭遇すると考えております。また、爆轟生成ガスの状態方程式の研究要素を含む研究提案が今年度の科研費に採択され、現在実施中です(4)。高エネルギー物質の威力評価や影響評価のみならず、誘爆の防止対策などを持続的に進展させるように同研究に取り組みます。
(1) Shiro Kubota (ed) (2023) Detonation Phenomena of Condensed Explosives, Springer, Singapore
(2) 久保田士郎, 他 (2025) 「爆轟生成ガスの状態方程式に関する検討-熱力学データ-」,2025年度火薬学会春季研究発表会
(3) Shiro Kubota, et.al, “Investigation of semi-empirical equation of state for detonation products“,STEM, 2025, accepted.
(4) 令和7年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)[基盤研究(A)、課題番号:25H00785]
2025年10月10日

