TEMPO酸化CNFがオオミジンコの繁殖に及ぼす影響とそのメカニズム
眞野 浩行(生態・健康影響評価研究グループ)
【背景・経緯】
セルロースナノファイバー(CNF)は、バイオマス由来の革新的なナノ材料です。中でも2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)を用いたセルロースの触媒的酸化処理を行って作成されるTEMPO酸化CNF(TEMPO-CNF)は、高い分散性、優れた機械的特性、大きな比表面積を示し、さまざまな用途への応用が期待されています。用途の拡大に伴って、環境中への放出が増加し、生態系への影響することが懸念されます。TEMPO-CNFを環境的に持続可能な方法で利用できるようにするためには、TEMPO-CNFの生態毒性データを取得して、環境影響を評価することが必要です。そこで、本研究では、オオミジンコ(Daphnia magna)の繁殖へのTEMPO-CNFの影響とその影響メカニズムを調査しました。
【成果】
異なるTEMPO-CNF濃度(3.1~100 mg/L)の分散液にオオミジンコを暴露して21日間飼育し、濃度区ごとに累積産仔数を測定しました。その結果を基に、累積産仔数について対照区と統計学的に有意差が検出されない最大の暴露濃度(無影響濃度;No Observed Effect Concentration; NOEC)を算出したところ、NOECは12.5 mg/Lと算出されました(図a))。また、異なる濃度のCNF分散液中でオオミジンコ仔虫に餌(クロレラ)を24時間摂食させたところ、対照区と比較して、25 mg/L以上のCNF濃度で有意な餌摂食速度の低下が確認されました(図b))。この結果から、高濃度のCNFに暴露されたオオミジンコがCNFをろ過摂食して腸管に取り込むことで、餌の取り込みが減少し、繁殖が低下することが示唆されました。また、100 mg/LのCNF分散液に24時間暴露した仔虫を、CNFを添加していない試験培地に移し、餌を添加後に24時間飼育した後、腸管内のCNFを観察したところ、ミジンコ腸管内のCNFが排泄されたことを確認しました。このことから、継続的に高濃度のCNFに暴露されなければ、CNFによるオオミジンコの繁殖への影響は生じないことが示唆されました。

図 TEMPO-CNFの設定暴露濃度に対するa) 累積産仔数とb)摂食速度(grazing rate)の応答
【成果の意義・今後の展開】
本研究により、オオミジンコの繁殖へのTEMPO-CNFの生態毒性は、一般的な化学物質と比較して低い部類と考えられました。この生態毒性データは、TEMPO-CNFの生態影響評価に活用され、その評価結果は、「CNFの安全性評価書-2025-」1)にまとめられています。また、TEMPO-CNFだけでなく、他のCNFについてもオオミジンコを用いた生態毒性試験を実施し、オオミジンコの繁殖への影響評価を実施しています。
※ 本研究成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託された研究成果(JPNP20009)であり、国際学術誌であるにEcotoxicology and Environmental Safetyに掲載されました(Mano et al., 2025)2)。
参考文献
1) https://riss.aist.go.jp/results-and-dissemin/1625/
2) Hiroyuki Mano, Rie Tai, Akihiro Moriyama, Yoko Iizumi, Tomohiko Matsuzawa, Toshiya Okazaki, Isamu Ogura (2025) Dilution effect of TEMPO-oxidized cellulose nanofibers on reproduction of Daphnia magna, Ecotoxicology and Environmental Safety, 2
2025年10月10日

