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  • 河川水中の被覆肥料カプセル由来プラスチック濃度を予測するモデルの妥当性評価:小矢部川水系の事例
  • 河川水中の被覆肥料カプセル由来プラスチック濃度を予測するモデルの妥当性評価:小矢部川水系の事例

    石川百合子(リスク数理解析研究グループ)

    • 梶原秀夫(研究部門付)
    • 勝見尚也(石川県立大学)

    【背景・経緯】
     国際的な環境問題となっている海洋プラスチックごみを減らす対策の一つとして、海洋環境中で分解される「海洋生分解性プラスチック」の開発が進められています。安全科学研究部門では、2020~2024年度のNEDOプロジェクトにおいて、河川環境中の物質移動を解析する産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)を改良し、海洋生分解性プラスチックを導入した際のプラスチックの削減効果を評価できる河川モデルを開発しました。このモデルの妥当性を検証するため、水田地帯が広がる富山県小矢部川水系で、被覆肥料カプセル由来プラスチックの観測を行い、推定結果との比較検討を進めました。

     

    【成果】
     小矢部川水系でのプラスチック濃度の観測は、2023年から2024年にかけて、主に水田の灌漑期である4月~9月に実施しました。上流から下流までの5地点で採水し、河川水中の被覆肥料カプセル由来プラスチックの分布を調べました。シミュレーションは観測期間を含む2年間を対象とし、水田に散布されたカプセル内の肥料が溶出した後、翌年の落水時に被覆肥料カプセル由来プラスチックが河川へ流出することを想定しました。年間散布量のうち約10%が翌年に流出し、その9割が代かき直後の強制落水時に流出すると仮定しています。また、富山県で栽培される主要な米の品種ごとの作付面積や田植え時期の違いも考慮して、流出負荷量を推定しました。現在使用されている被覆肥料カプセルは水中で浮きやすいため、沈降しない条件でシミュレーションを行いました。その結果、推定値はやや高めでしたが、観測値のばらつきを考慮すると、濃度のおおよその傾向やピークは一致しており、モデルは妥当と判断されました。

     

    図 小矢部川下流地点における被覆肥料カプセル由来プラスチックの河川水中濃度の経時変化

    ※観測値のエラーバーは最小値と最大値を示す。

     

    【成果の意義・今後の展開】
     モデルの妥当性が確認できたことから、現在、海洋生分解性プラスチックを導入した場合の沈降や分解を考慮した濃度変化を、シナリオ解析で定量的に評価する試みを進めています。今後は河川だけでなく水田など陸域での挙動もモデルに組み込み、精度向上を図る予定です。本研究により、海洋生分解性プラスチック導入の水環境中のプラスチック低減効果を明確に示し、市場導入の促進にも貢献できると考えています。

     

     

    ※ 本研究の一部は第58回および第59回日本水環境学会年会においてポスター発表として報告しました。

    ※ この成果は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP20008)の結果得られたものです。ここに謝意を表します。

    2025年12月09日