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  • 食糧生産過程に発生した廃棄食糧からみたN・P資源回収&CO2削減のポテンシャル試算
  • 食糧生産過程に発生した廃棄食糧からみたN・P資源回収&CO2削減のポテンシャル試算

    林 彬勒(リスク数理解析研究グループ)

    • 戸張 直子(リスク数理解析研究グループ)

    【背景・経緯】
     窒素(N)やリン(P)の資源回収は低炭素社会実現のための重要な施策の一つです。特に、施肥が欠かせない食糧の生産および消費過程におけるNやPの資源回収は社会的に大きな関心を集めています。本研究では、まず食糧の生産過程で発生する廃棄に着目し、政府統計(e-Stat)食料需給DB(1960〜2022)、三島ら(2010)、文部科学省の食品成分DBを用いて、52種類の食糧の生産から食卓に届くまでに生じた年間廃棄量およびその中に含まれるN・Pの総量を定量的に解析しました。さらに、環境省のCO2排出関連DBを活用し、この廃棄に含まれるN・Pを資源回収して循環再生した場合のCO2削減ポテンシャルを試算しました。

     

    【成果】
     図には年間廃棄量の多いトップ30種の食糧に含まれるN・Pの総量に関する算出結果を示しました。62年間の平均値と2022年の比較から、廃棄される食糧の種類や傾向は大きく変わらず、年間数万トン以上のN・Pが廃棄される食糧が多く存在することが明らかになりました。また、2022年の年間廃棄量に含まれるNは約42万トン、Pは約10万トンと推定されました。そこで、もしこれらの年間廃棄量のN・Pを肥料として再利用した場合、その分のN・P肥料の生産に際しての約188万トンのCO2の排出が回避されると試算しました。さらに、2022年の国民一人当たりの年間CO2排出量8.3トンのデータを用いて計算したところ、この188万トンは約23万人分の年間排出量に相当し、埼玉県春日部市や東京都台東区の年間排出量に匹敵する結果となりました。これらの試算から、食糧生産過程における廃棄物の資源回収と再利用の優先順位やカーボンネガティブへの寄与可能性など、多くの示唆を得ることができました。
     

    図 年間廃棄量の多いトップ30種食糧中に含まれる窒素・リンの総量
    (1960〜2022の年間平均&2022年)

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究は、日本の食糧生産過程に生じる廃棄食糧に含まれるN・P資源の回収に着目した初の解析事例であり、各種類の食糧の廃棄量からの資源回収ポテンシャルを定量的に明らかにしました。特に、Nは魚介類・葉茎菜類・穀物・果菜類・豚肉、Pは葉茎菜類・穀物・果菜類からの回収が有効であることを示し、資源回収の優先順位に関する有益な示唆を得ました。これらの成果は、サーキュラーエコノミー社会の推進や低炭素社会の構築に寄与するものです。

     

     
    ※ 本研究は、JST 共創の場形成支援プログラムJPMJPF2104 の支援を受けたものです。

    2025年12月09日