再生プラスチックに含まれる元素の人工汗および化粧品模擬溶媒への溶出
小栗朋子(暴露計測研究グループ)
【背景・経緯】
近年、資源循環や脱炭素社会の実現に向け、再生プラスチックの利用拡大が世界的に進展しています。一方で、再生材に含まれる重金属などの不純物が使用時にどの程度溶出し、作業者や消費者がどの程度曝露するかについては十分に評価されていないのが現状です。プラスチックを介した金属曝露を定量的に評価するためには、単なる含有量の測定にとどまらず、実際の曝露シナリオに対応した各種溶媒への溶出挙動を的確に把握し、科学的根拠に基づくリスク評価手法を確立することが重要です。そこで本研究では、再生プラスチックペレット35試料を対象に、人工汗および化粧品模擬溶媒を用いた溶出試験を実施し、元素の溶出量を詳細に測定・評価しました。
【成果】
国内9カ所のリサイクル施設から収集した再生プラスチックペレット35検体を試料としました。人工汗による溶出試験は、ペレット試料0.1gに対して模擬汗液20mLを加え、37℃で1時間振とう後1時間静置して溶出したものを分析用試料としました。化粧品模擬溶媒による溶出試験はペレット試料25gに対し、3%酢酸 20mLを加え、60℃で72時間静置し、溶出したものを分析用試料としました。分析用試料溶液は適宜希釈後、ICP-MSにより元素濃度を測定しました。
ペレット試料中元素の含有量は可搬型蛍光X線分析計により測定しました。各元素の溶出率は、溶出液に検出された金属量をペレット試料中金属含有量で除して求めました。
その結果、人工汗による溶出率は中央値で <0.02~4.5%、化粧品模擬溶媒による溶出率は中央値で<0.1~0.25%、全体として、汗や化粧品模擬溶媒への溶出率は数%レベルでした(図)。
今後は、今回求めた溶出率を用いて、再生プラスチック材料や製品を介した元素の曝露評価を行う予定です。

図 各元素の人工汗への溶出率(%)
【成果の意義・今後の展開】
本成果は、再生プラスチックからの元素溶出を定量的に評価した初の包括的データであり、再生材利用時の安全性評価に資する科学的根拠を提供するものです。今後は、得られた溶出率を用いて、曝露量の推定や健康影響評価モデルの構築を行い、再生プラスチック材料や製品の安全な利用基準を検討していく予定です。これらを通じて、行政・産業界でのリスク管理や持続可能な資源循環社会の形成に貢献していきます。
※ 小栗ら(2025)第33回環境化学討論会/第4回環境化学物質合同大会(山形)要旨集FR-E1-4
2025年12月09日

