TEMPO酸化セルロースナノファイバーの生態毒性試験手法の開発
田井梨絵(生態・健康影響評価研究グループ)
【背景・経緯】
セルロースナノファイバー(CNF)は様々な植物から製造される、持続可能な社会に貢献し得る新規ナノ材料のひとつです。CNFの利用量は今後拡大することが予想されますが、同時に環境中への流出量および水生生物への暴露量が増加し、生態系へ何らかの影響を与える可能性があります。CNFの持続可能な利用のためには、CNFがどの程度の濃度で水生生物へ影響を与えるのか正確に把握し、安全性を評価する必要があります。本研究では、CNFの一種であるTEMPO酸化CNFを対象として、CNFが試験液の中で均一に分散するような試験方法を検討し、その試験方法を用いて、ミジンコおよびメダカに対する急性毒性試験を実施しました。
【成果】
CNFは、イオン濃度が高い水質では凝集や沈殿する特徴があります。一方で、イオン濃度が低い試験液では、供試生物の生存や繁殖に影響を及ぼす恐れがあります。そのため、まずは試験液中のCNF濃度の均一性を調査しました。TEMPO酸化CNF濃度を30 mg/Lに設定した、イオン濃度が異なるCNF試験液を用意し、試験液中のCNF濃度の均一性が保たれた上で生物に影響を与えない試験液を調査しました。その結果、低硬度人工水および、つくば市の脱塩素水道水を8:2でブレンドした試験液(ブレンド水)が最も均一で(図)、生物に影響を与えないことが分かりました。次に、このブレンド水を試験液として、OECDテストガイドラインに基づいたミジンコに対する遊泳阻害試験およびメダカに対する急性毒性試験を実施しました。各生態毒性試験を実施した結果、どちらの生物に対しても半数影響濃度は100 mg/L以上となり、TEMPO酸化CNFのミジンコおよびメダカに対する急性的な影響は低いことが示唆されました。本研究の成果は、今後CNFの生態影響を評価する上で有用な知見となります。

図 栄養塩濃度が異なる試験液におけるCNF濃度の空間的および経時的な均一性
水色の枠内は±20%の範囲、灰色破線は設定濃度
【成果の意義・今後の展開】
本研究は、生物に影響を与えずにCNF濃度を均一に保つことができるイオン濃度の試験液を用いて、TEMPO酸化CNFの暴露濃度を正確に把握したうえで生態毒性試験を実施した世界で初めての知見になります。この成果は、国際誌1)として報告されており、「CNFの安全性評価書-2025-」2)にとりまとめられています。今後、異なる材料や解繊方法で製造された、特徴が異なるCNFを用いて、各CNFの特徴を考慮した試験方法を検討しながら、安全性評価に資する生態毒性試験を実施していきます。
※ 本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託された研究成果です(JPNP20009)。
1) Tai R, Ogura I, Okazaki T, Iizumi Y, Mano H. Acute toxicity tests of TEMPO-oxidized cellulose nanofiber using Daphnia magna and Oryzias latipes. Cellulose 31, 2207-2220 (2024).
2) https://riss.aist.go.jp/results-and-dissemin/1625/
2025年12月09日

