物質網羅的な把握手法ノンターゲット分析と新たな評価アプローチ
頭士 泰之(暴露計測研究グループ)
【背景・経緯】
国内外で産業利用される化学物質の種数は35万種におよぶと見積もられ、使用量と共に飛躍的に増加しています。環境リスクの最小化を目指す「化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)」の観点からも、製品や環境中の物質を網羅的に把握する事は益々必要となっており、それを可能とするポテンシャルを秘めるフルスキャン測定に基づくノンターゲット分析への期待が高まっています。ノンターゲット分析は、サンプル中に含まれる物質をイオン化して装置導入する事で、種数の制限なくそれらを網羅的に検出する事を可能とし、従来のターゲット分析の物質カバー範囲を大きく塗り替えるものです。一方で製品評価や環境分野への適用には、分析精度の把握やデータ解析・解釈方法を含め課題が残っています。
【成果】
本研究ではノンターゲット分析のデータ解析プロセス(ノンターゲットスクリーニング)の研究開発の一環として、物性等の予測手法の発展的研究に取り組みました。これまでの研究取組みにおいて、ガスクロマトグラフ-質量分析計を用いたノンターゲット分析によって得られる測定出力(計測記述子)のみから、物質由来の検出ピークについての蒸気圧や有害性を予測可能とする手法「Detective-QSAR」を開発しています。これは質量スペクトルの波形が化学構造に応じて得られるという考えに基づき従来的な定量的構造活性相関(QSAR)を応用した手法である反面、従来的なQSARとの挙動や性能の違いに関する比較はなされていませんでした。そこで今回こうした点を明らかにすべく、従来的なQSARである分子記述子による予測とノンターゲット分析で得られる計測記述子による予測の比較を行いました(図)。結果として、これらは互いに同程度の予測精度を有する事を明らかにしました。
本内容は下記の国際誌に掲載されました。

図 記述子に基づく物性等予測手法
上:分子記述子に基づく従来手法(構造情報を要しターゲット既知の場合に適用可能)
下:計測記述子に基づくDetective-QSAR(構造情報を要せずノンターゲット分析に適用可能)
【成果の意義・今後の展開】
本研究の成果として、ノンターゲット分析で生じるような物質の化学構造が未知であるケースに対しても、従来手法(化学構造情報が必要)におけるケースと遜色ない精度で物性等予測が可能であり、ノンターゲットスクリーニングに基づく物質評価の可能性を示しました。今後さらなる精度向上や適用範囲の拡大は必要ですが、これにより例えば物質網羅的なモニタリングに基づく政策立案や規制提案に対し、合理的判断の根拠を示す事が可能になると期待できます。
本研究はJSPS科研費 (19H04297, 23K28247, 23K17470)の助成を受けたものです。
2026年02月04日

