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  • 詳細リスク評価書 ビスフェノールAの有害性評価(アップデート版):概要
  • 詳細リスク評価書 ビスフェノールAの有害性評価(アップデート版):概要

    独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門(RISS)は、2005年にビスフェノールA (BPA) の有害性および日本人への暴露量を推計し、中西準子・宮本健一・川崎一著 『詳細リスク評価書シリーズ6 ビスフェノールA』(丸善、2005年)として公表した。

    当時、低用量問題など多くの課題が残されていたが、その後、多方面の研究が実施され、おびただしい量の有害性に関する新しい情報が公表された。そのため、現在では、当時とは比較にならないほどの有害性情報が蓄積され、当研究所によるBPAのリスク評価にも若干の情報ギャップが生じた。

    また、2008年ころより昨年までに欧州連合によるBPAのリスク評価書のアップデートや国際連合食料農業機関および世界保健機構による合同専門家会議によるBPAの有害性レビューに関する要約報告書も公表された。このような状況から、我々のリスク評価書でのBPAの有害性評価も早急に見直す必要があると考え、昨年7月よりアップデートに着手した。

    BPAの有害性に関しては、現在でも多くの不確実性が残されており必ずしも議論が尽くされているとは言えないが、現時点での最新情報を整理し、当研究所の考え方をまとめた。
    (2011年4月)

    <2011.6.23修正版アップロードについて>

    2011年6月27日、「2011.6.23修正版」をアップロードしました。修正箇所は下記になります。

    1. 誤字・脱字の修正、一部記述の整理。

    2. 表7とそれに関連する記述は、当初、サルでは0.1mg.kgから10mg/kgまで代謝が直線的であることを示すためでしたが、表7では、カニクイザルとリスザルのデータが混在しており、代謝が直線であることを示すには不適切でした。また、この内容は、考察にも使われておらず、不要と判断し、本文から削除しました。

    報告書作成者
    川 崎  一  独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門(RISS)客員研究員
    カザウィ理香  独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門(RISS)テクニカルアシスタント

    報告書校閲者
    高 橋 道 人  病理ピアレビューセンター代表
    三 森 国 敏  東京農工大学大学院 農学研究院教授

    監修
    中 西 準 子 独立行政法人産業技術総合研究所フェロー

    要約

    ビスフェノールA (BPA)のヒト健康に関する2005年以降の情報を精査し、BPAのヒトに対する有害性情報のアップデートを行った。BPAのヒト健康に対する有害性のひとつとして、次世代への生殖毒性が懸念されていたが、この影響の有無を検査する試験ガイドラインに準拠したGLP試験が実施され、次世代の生殖能に関しては300mg/kg体重/日でF1/F2の妊娠期間の軽度延長があった他には影響は認められず、無毒性量(NOAEL)は50 mg/kg体重/日であった。また、BPA の経口投与による一般毒性として、マウスで肝細胞の多核巨細胞化、小葉中心性細胞大型化、小葉中心性肝細胞肥大および腎症がみられた。これらのうち小葉中心性肝細胞肥大の慢性暴露条件下として推計したNOAEL(3mg/kg体重/日) が最も低かったことから、これをBPAの経口投与での一般毒性のエンドポイントとした。

    BPAの経口投与による発がん性に関しては、動物試験データからすでに陰性と判断されている。また、BPAに皮膚刺激性、皮膚感作性、光刺激性、光感作性に関しては、実用レベルでは動物試験で陰性であるので、ほとんど懸念する必要はないと考えられた。

    BPAの発達神経毒性に関しては、OECD試験ガイドライン426および米国EPA OPPTSの試験ガイドライン870.6300に準拠したBPAの発達神経毒性(GLP)試験が実施されたが、現行の試験プロトコールは、既知の発達神経毒性物質の検出には有効であっても女性ホルモン様活性を持つ化学物質に有効であるかどうかは明らかではなく、評価は保留した。また、BPAの出生前あるいは新生仔期暴露による脳の性分化や性行動、各種の社会行動、脳内神経伝達物質およびそれらの受容体発現などへの影響に関する報告は、いずれも、ヒトでの有害影響と見なすには不確実性が大きく、RISSはBPAの子宮内暴露および母乳経由暴露などによる子供の脳機能あるいは行動への影響に関しては、現時点では評価できる状況にはないと判断した。

    BPAのトキシコキネティックス研究から、BPAは肝臓で主としてグルクロニド抱合されて解毒されるが、げっ歯類に比較し、ヒトでは速やかにBPAが代謝・排泄されることが示されていることから、RISSはBPAの有害性についての種差に関わる不確実性係数は2.5が適切であると判断した。

    2005年刊の詳細リスク評価書では、動物試験から得られたNOAELを5mg/kg 体重/日、不確実性係数を100としたが、今回新しい情報を精査した結果、動物試験から得られたNOAELを3mg/kg 体重/日、不確実性係数を25とした。

    日本人のBPA暴露量推計(Miyamoto and Kotake, 2006)によれば、1~6歳児で最も高く、推計値の95%タイル値は、3.9μg/kg体重/日(男)および4.1μg/kg体重/日(女)であった。また、成人の24時間尿中BPA濃度から推計したBPAの摂取量の95%タイル値は0.037~0.064μg/kg体重/日(男性)および0.043~0.075μg/kg体重/日(女性)であった。これらの暴露推計の95%タイル値と上述の動物試験でのNOAEL(3mg/kg体重/日)を用いると、Margin of Exposure (MOE)は1~6歳児で730~770、成人では40,000~81,000となった。これらの値は、上述のヒトで健康影響を及ぼすと推計されるMOE(25 = 種差:2.5 x個体差:10)あるいは従来の保守的なMOE(100 = 種差:10 x 個体差:10)よりもはるかに大きく、BPAのヒト健康影響に対するリスクは、ほとんどないと考えられた。

    ビスフェノールAの有害性評価(アップデート版)全文は無償で公開中。(ダウンロードはここをクリック)
    英語版も公開しました。(ダウンロードはここをクリック)

    「詳細リスク評価書シリーズ 6 ビスフェノールA」(丸善株式会社)は 2005年11月に刊行されている。 (ここをクリック