詳細リスク評価書シリーズ18 ベンゼン:概要
ベンゼンは常温・常圧で無色透明な液体で、特異な芳香臭を持つ可燃性物質である。分子式はC6H6で、ベンゼン環と呼ばれる構造を持つ。分子量は78.11、融点は5.5℃、沸点は80.1℃、比重は0.87865(20℃)である。ベンゼンは、多様な化学工業製品の原料として使用される、最も基礎的な有機化学物質の一つであり、流通量はきわめて大きい。年間の国内生産量と輸入量を合わせると概略500万トンに達する。
環境中へのベンゼンの発生源としては、この工業原料としての製造・輸送・貯留過程における漏出のほか、ベンゼンを含有する溶剤や燃料等の石油製品からの蒸発や不完全燃焼によるものがある。特に自動車排ガス中に含まれるベンゼンは沿道の大気環境に影響を与えている。また、タバコの煙に含まれる点にも注意する必要がある。水域に排出されるベンゼンは大気への排出に比べてごくわずかである。
ベンゼンのヒト健康影響については十分な証拠が挙げられている。疫学研究により、ベンゼン暴露による白血病の発生増加が認められている。そのほか、変異原性の試験では実験動物の細胞に染色体異常を起こすことから、遺伝子傷害性を持つことも疑われているが、日本では前述の白血病との関係を根拠として大気環境基準値3 μg/m3が設定されている。
全国モニタリングによれば、2004(平成16)年度の時点で418地点のうち23地点で環境基準を超えていた(一般環境2、発生源周辺6、沿道15)。2003年度が最終年度であった事業者による第二期自主管理計画の進行によって排出は大幅に減り、環境基準超過地点もここまで減ったが、発がん性の認められた物質がこのような濃度レベルにあることには十分な注意を払い続ける必要がある。
以上のようなベンゼンの特性と現状環境実態に鑑みて、ベンゼンの詳細リスク評価を行うことには十分大きな意義があり、そのため本評価書を作成した。対象は大気経由の暴露にしぼった。職業暴露、および事故等で発生する可能性のある高濃度に対する急性毒性やそのリスク評価については本評価書では扱わない。
ベンゼン詳細リスク評価書は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託のプロジェクト「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」のテーマ「リスク評価、リスク評価手法の開発及び管理対策の削減効果分析」の研究成果である。
評価書の全文は、「詳細リスク評価書シリーズ18 ベンゼン」(丸善株式会社)として2008年3月に刊行されている。 (ここをクリック)