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    グローバルサプライチェーン水リスク分析シート
    ー TNFD対応を支援するサプライチェーンにおける水利用リスク分析へ ー

     

    ビジネスと水利用の関わりへの注目

     脱炭素社会の実現に向けた社会的要請として事業に関わる気候変動関連のリスクや機会を把握し開示することが求められており、環境問題とビジネスとの関わりについて金融機関や投資家の方々とコミュニケーションすることが企業評価に繋がる機会が急速に増えています。こうした流れの中で昨年10月には、気候変動だけでなく生態系や水資源といったより広い自然との関わりとしてその依存、影響、リスクや機会を把握するためのガイダンス(TNFDガイダンスv1.0)が発行されました。金融機関や投資家の方々を始めとしたステークホルダーとの対話にこうした自然との関わりについての説明が求められることがより加速しており、その中でも水資源の利用は自然とビジネスとの関わりとして重要な要素の一つとしてTNFDガイダンスの中でも注目されています。

     

    世界に広がるサプライチェーンの複雑さ

     一方で世界の様々な国や地域で生産された素材、部品や製品が世界貿易を通じて生産活動に利用される中で、自社の事業活動に関わるサプライチェーンの全容を把握することは困難になってきています。特に水資源は偏在性が高く、国や地域によってその影響の程度が異なるため、自社の事業所での水利用の把握だけでなく、調達している物品やサービスに関わる水利用を把握することが重要です。しかしながら、多様な購入物やサービスのサプライチェーンを遡って水利用の状況を把握することは非常に労力がかかるため、多くの企業の方々にとって大変困難な課題となっています。

     

    サプライチェーンの水利用を分析するためのツールの開発

    こうした課題を解決することを目指して、産業技術総合研究所では日本で購入されるすべての物品やサービスを約400のカテゴリに分類して日本の産業活動に関わる世界のサプライチェーンにおける水利用とそのリスクが世界231カ国のどこで、どれだけ生じているのかを定量的に分析することができるデータベースとそれを搭載したツールを開発しました。このツールには以下のような特徴があり、TNFDガイダンスに対応して水利用に関わる依存、影響やリスクを分析できます。

     

    - 自社で購入している調達品に関わる水利用とそのリスクを網羅的に分析可能
    - 入力する情報は調達品の購入金額を用いることで会計情報から分析
    - 調達品に関わる世界の国々における水消費量、水消費に伴う生態系への影響など自然への影響に加えて、干ばつや季節変動などの水供給不足のリスクも分析可能
    - 水消費に伴う影響だけでなく環境容量超過量も分析することができるため現状分析だけでなく改善に向けた目標設定への活用も可能

     

    グローバルサプライチェーン水リスク計算シートによって得られる結果のイメージ

     

     本分析シートで評価することができる水リスクは、以下のようにPeer reviewを受けた成果を中心として評価するものとなっています。

     

    - サプライチェーンにおける水消費量データセット

    Motoshita et al. (2023) Responsibility for sustainable water consumption in the global supply chains. Resources, Conservation and Recycling, 196, pp.107055

    https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2023.107055

     

    - 水ストレス評価

    Boulay et al. (2018) The WULCA consensus characterization model for water scarcity footprints: assessing impacts of water consumption based on available water remaining (AWARE). International Journal of Life Cycle Assessment, 23, pp.368-378

    https://doi.org/10.1007/s11367-017-1333-8

     

    - 環境容量超過水量、環境容量超過リスク評価、生態系潜在影響評価

    Motoshita et al. (2020) Regional carrying capacities of freshwater consumption—current pressure and its sources. Environmental Science and Technology, 54(14), pp.9083-8094

    https://doi.org/10.1021/acs.est.0c01544

     

    - 生物種損失割合評価

    Pierrat et al.(2023) Global water consumption impacts on riverine fish species richness in Life Cycle Assessment. Science of the Total Environment, 854, pp.158702

    https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.158702

    Motoshita et al. (2020) Regional carrying capacities of freshwater consumption—current pressure and its sources. Environmental Science and Technology, 54(14), pp.9083-8094

    https://doi.org/10.1021/acs.est.0c01544

     

    - 干ばつリスク、季節変動リスク評価

    World Resources Institute (2019) Aqueduct 3.0: Updated Decision-Relevant Global Water Risk Indicators, World Resources Institute

    https://doi.org/10.46830/writn.18.00146

     

     産総研グループは、上記の分析シートを利用した企業によるサプライチェーンにおける水利用リスクの分析を通じたTNFDガイダンスに対応したリスク分析および管理を支援することを目指しています。水利用に関連した自然関連リスク分析の社会実装を進めることで、自然への影響、依存やリスクの改善を通じた事業の価値創造に貢献していきます。

     本分析シートの利用についてのお問い合わせは(water-ml@aist-solutions.co.jp)にて受け付けております。